◇ウェルカム・メッセージ第20号◇
(2006年7月8日〜2006年7月25日まで掲載)

<<(社)日本経済団体連合会 2006年6月20日 我が国におけるコーポレート・ガバナンス制度のあり方について より引用>>

−大学法人におけるコーポレート・ガバナンス−

18年度の科学技術振興調整費の施行が大幅に遅れている。いろんな報道資料から見ると、政府の委員も務める早稲田大学の女性のスター教授が不正受給していたことが白日の下に曝されたことが原因のようだ。国立、公立、私立を問わず大学という法人に、企業が市場で厳しく問われる「コーポレート・ガバナンス」の倫理観は薄いように思える。先には、韓国の名門ソウル大学で捏造した研究が韓国を揺るがすほど大問題に発展したことは記憶に新しい。

最近、日本経団連でも村上ファンドに揺さぶられた「ホリエモン騒動」、「阪神株買収によるタイガース騒動」を教訓にして以下(抜粋引用)のようなページをHPに掲載して自らを戒めている。

科学技術投資の成果が十分に国民に還元されていくためには、イノベーションの創出に関して、産学官で共通認識が得られ、第3期基本計画に基づく政策展開、大学や公的研究機関の活動、産業界の取り組みとがあいまって、知の創造の成果が、イノベーションの実現へとつながっていくことが不可欠と考える。

が、そこにいくと大型研究を採択される大学は、組織として国民の血税を食って研究している自覚が薄いのだろう。採択された教官には、大学が組織的に投資される費用の運用を任されているように見えて、現実は一般社会とことなり、教官のみぞ知る世界に事務方がぶら下がる、怪しげな構造も孕んでいるのではなかろうか。そこが世界の一流大学に比較して、ガバナンスの発揮に乏しい我が国の大学の姿かもしれない

形式ではなく、実質、実効性への着目


コーポレート・ガバナンスに関する議論は、形式に捉われがちであるが、重要なのは、企業の競争力の強化、効率性の向上や企業不祥事の防止、健全性の確保を図り、長期的な企業価値を向上させることである。これが企業経営の目的であり、コーポレート・ガバナンスは目的を達成するための手段である。したがって、形式的な手法や仕組みに捉われず、目的・実質に着目して、企業価値の増大にとって実効性のある取組みを推進していく必要がある。例えば、取締役会については、法的にも実際にも、長期的展望に立って、基本戦略の策定や企業の将来に重大な影響を与える事項に関する意思決定、業務執行の監視等を行うことが求められており、取締役の資質や利益相反等については、形式ではなく実質を考慮すべきである。また、昨今、企業不祥事の防止に有効な手段として注目されている内部統制システムについても、形式的な手続面ではなく、各社の実態に適しており、かつ実効性、効率性が高いことが重要である。
現在、各国において、コーポレート・ガバナンスの強化に向けて、様々な試行錯誤が行われているところであり、実効性に関するコンセンサスが得られた普遍的な手法は存在しないのが現状である。内部統制システムを含め、海外で行われている手法を、我が国の制度として一律に導入することは、実務の混乱やコスト等を考えると、企業を含めた関係者にとって過度な負担を課す恐れがあり、避けるべきである。

規制から市場による判断の重視へ


本来、株式市場とは、ルールや倫理に従って、企業や株主、投資家が自己責任に基いて、各種の株式取引を行うべきところである。また、政府や証券取引所には、市場において、自己責任に基いて行動する投資家の保護(公正取引の確保、適時適切な情報開示等)という役割がある。
企業の株主は、株式取引によって決定されることから、公正な株式取引は、適切なコーポレート・ガバナンスの大前提である。昨今、株式市場に関する法やルールの不備を突いた形での取引が、市場関係者を混乱させている。ルールの透明性向上・不備の迅速な是正、不公正な取引の摘発等を果敢に行う等、取引の公正性を確保するための方策を早急に講ずる必要がある。
コーポレート・ガバナンスに関しては、企業は、各社の戦略、社風等に合ったコーポレート・ガバナンスに関する取組みを進めている。活力ある資本市場を確立する観点から、各社は、自らの責任で、情報開示や説明に努め、各社の具体的取組みへの評価については、基本的に、株主や投資家等市場による判断に委ねるべきであり、企業の創意工夫や株主の判断の余地をできる限り広くすることが望ましい。政府や証券取引所等が、各企業のコーポレート・ガバナンスの具体的手法や仕組み等について特定の方向に誘導すべきではない。
さらに、資本市場の活用を誘導する政策がとられている中で、資本市場における重要なプレイヤーである投資家サイドにも、適切な倫理観、説明責任の遂行等も期待される。

大学法人で真似たが、活かしきれていない社外取締役の導入義務化、社外役員の独立性強化に対する考え方


昨今、我が国では、コーポレート・ガバナンスに関する議論の中で、経営者へのチェック機能を高めるため、米国のように、社外取締役の導入義務化や、社外役員の独立性の強化を求める意見がある。日本経団連としては、取締役会における監督は、経営者や特定の利害関係者の利益に偏ったものであってはならないという基本的な問題意識は共有しつつも、以下のような理由から、法制度等による社外取締役の導入義務化や社外役員の独立性強化には反対であり、各社の創意工夫と市場による評価の相互作用等、市場のダイナミズムを活用すべきと考える。

諸外国との制度等の相違を踏まえるべき


社外取締役の設置義務付けや社外役員の独立性強化を求める意見は、とりわけ米国における取組みを参考にしているものであるが、ここで留意すべきは、米国において、独立取締役の存在と企業のパフォーマンスとの関係は立証されていない点である。米国が、独立取締役の役割に着目した経営者のチェック体制の確立に努めている背景には、米国型資本主義の特徴の1つである、経営者の高額報酬や過度に短期的利益を追求するどん欲さがある、と言われている。
また、米国では、監査役(会)制度が存在しないことに加えて、取締役の任期3年制を前提とした期差任期付取締役会制度の導入や、取締役の解任に正当事由を要すること、少数株主による株主総会への役員選任議案提出権がないこと、少数株主は株主総会招集権がないこと等の定款による規定、株式内容の取締役会への白紙委任、取締役会決議によるライツプランの導入等、株主の権利、役割が日本とは異なる。
さらに、米国の社外取締役には、経営者の友人・知人が就任している場合が少なくないとの指摘もある。
このように、米国では、実質的に、経営陣に権力が集中しやすい仕組みであるため、取締役の独立性に関する議論が盛んに行われている。
我が国において、社外役員のあり方を検討するにあたっては、諸外国との制度や実態等の違いを十分に踏まえる必要がある。また、米国の場合、役員や幹部職員等の流動性が高く、長期的な企業価値の向上に向けた責任感や取組みの面で、日本企業とは異なることにも留意すべきである。
一方、我が国も、自国の制度(監査役(会)制度の特徴、メリット等)について自ら積極的に情報発信を行い、諸外国からの理解を得る努力を行う必要がある。特に、IR活動の際に、企業の理念・ビジョンとともに、十分なチェック機能が働いていることについて、株主・投資家に対して法制度や資本市場の相違等を踏まえた適切な説明を行うことが望まれる。

社外監査役・社外取締役の適格性は、形式的な要件ではなく、総合的、実質的に判断すべき


監査役・取締役には、高度な人格、識見、情報収集力、分析力、業界関連知識等を備え、企業経営の将来に対して責任ある判断ができる能力が求められる。したがって、その選任にあたっては、「社外者であるか」や「独立性があるか」といった属性に関する形式的な要件ではなく、人格、識見、能力等を総合的、実質的に判断すべきである。必要以上の制約は、むしろ有為な人材の選任に支障を来たす。
また、社外者を活用する手法としては、企業が、社外取締役以外にも、社外監査役、弁護士など外部の専門家、アドバイザリー・ボード等、様々な形態があり得る。実際、すでに多くの企業が、経営や執行の効率性や健全性を確保するために、自社の実情に合わせて、「取締役相互による監視、取締役会による監視」のみならず、社内重要会議への監査役の出席や社外監査役の活用等を通じた「監査役によるチェック」や「内部監査等によるチェック」、「社外者によるチェック」等を通じて、経営者をチェックする体制を構築している。とりわけ、各企業の実態を踏まえて、時間をかけて、コスト・パフォーマンスの高い内部統制システムを磨き上げてきた企業も少なくない。公益通報者保護制度も本年4月から施行されており、社内における自浄作用が期待できる。
一方、買収防衛策の導入・発動に関する議論の中で、独立取締役による判断が必要であるとの意見が一部にあるが、2005月5月に経済産業省・法務省が公表した「企業価値・株主共同の利益の確保又は向上のための買収防衛策に関する指針」では、買収防衛策に関する判断は、株主総会の承認や、取締役会の決議で導入する場合における社外監査役や社外取締役、もしくは独立社外者で構成される委員会による判断等、様々な手法があるとしており、独立取締役や社外取締役による判断が唯一絶対であるとの考え方はとっていない。
なお、監査役設置会社においては、法的に取締役会ならびに経営陣から独立性が確保された監査役による二重の監視システムを設けた上で、執行状況の監督の実効性を確保するための様々な取組みを行っている。監査役制度は、我が国独自の制度であり、諸外国には分かり難いとの指摘もあるが、米国証券取引委員会(SEC)からも、企業経営を監視する仕組みとして優れた制度であるとの評価を得ている。今後、監査役の実際の活動について、関係者の理解が深まるよう、透明性が、より一層高まることも期待される。

記事全文は以下のURLより
http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2006/040.html

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