◇ウェルカム・メッセージ第8号◇
(2005年2月28日〜2005年3月31日まで掲載)

『覚醒が求められる産業界〜デジタルコンテンツの国際戦略』

1月22日の小泉首相の施政方針演説(中略)で、「映画・アニメなどのコンテンツを活用した事業を振興し、ファッションや食の分野で魅力ある日本ブランドの発信を強化するなど文化・芸術を活かした豊かな国づくりを進めてまいります」と述べている。筆者も次のアドレスのとおり、この分野に早くから着目してきたひとりである。(詳しくは http://www.sunadaphd.com/fusion/index.html から参照をお奨め)

鉄鋼市場の倍、「11兆円」を市場規模とするデジタルコンテンツ分野の国際競争力が取り沙汰され、経団連からも一昨年まとめられ政府に提言がなされたことも追い風となった。筆者もこの分野で急務とされるデジタルコンテンツ等、新興分野人材養成のための公募(2月7日締切、文部科学省科学技術振興調整費)に申請を済ませたばかり。

映画・アニメといっても十把一絡げ(じっぱひとからげ)には語れない。米国では、ウォルト・ディズニー氏をボードメンバーのトップに擁す南カリフォルニア大学(USC)を拠点に、映画やアニメーションは科学技術と文化芸術の融合領域の研究が早くから進められてきた歴史がある。その事においてCG制作のためのアルゴリズムの開発など、コンピューター・ハード・ソフト両面の科学技術のフロンティアが拓かれてきた。映画「未知との遭遇」「スターウォーズ」「ニモ」「Mr.インクデシブル」など、世界をリードした大ヒット作品は、まさに科学技術と文化芸術の領域が融合した永年の研究の成果といえる。奇しくも今日、2005年度アカデミー賞の発表が映画の都ハリウッドのあるロスアンジェルスで催される。

昨年あたりから大学でもアニメ・映画業界からスター的人材を教授に迎え入れ、多くの学生を引き込もうとしている。少子高齢化の進展で、18才大学入学適齢人口は2007年以降激減の一途となり、定員割れの大学が続出する。大学は冬の時代に突入する。抜きん出た特徴を出さなければ、大学は淘汰される危機感が背景にあるのだろう。同時にここまで各大学が力を入れるのは、政府のIT戦略『e-JAPAN』など、知財戦略の国ぐるみの取り組みも無視できない背景にある。

十把一絡げ(じっぱひとからげ)、なんでもかんでんでもひとまとめにして扱う意味だが、この分野は何処の都市でも扱える産業分野ではない。米国の例を挙げていうまでもないが、全米50州の中で映像産業拠点は前述のハリウッドのあるカリフォルニア州に限られるからだ。創作の世界に求められる感性は、万人に備わったものではない。さらに絵が描ければ良いというものでもない。国際競争力に求められる能力、なかでも数学的才能を備えたダビンチ的人材の養成が急務だという。しかもその市場が大学に近接したなか(概ね半径10km〜30km圏以内)で、産業クラスターが形成されなければ、産業的、ハリウッド的都市の発展はないだろう。

つまり、米国映画のハイテクノロジーがすごいのではない。ハリウッドという都市機能、都市の制作環境がすごいのだ。CGアーチストを育成し、脚本家、演出家、俳優、デザイナーにとどまらず、著作権、リメーク権、知財権をビジネスにするエンタメローヤー(弁護士)、プロデューサー、監督、投資家に至る様々な人材を養成される風土や、そのために必要なコンピューター・サイエンスなど科学技術、さらにビジネスに必要な専門家の養成を支える大学や、シリコンバレーにあるIT企業との連携なくして、ベンチャー企業の創出も「産業クラスター」の創生もありえない。

大学の新しい試みに水を差す気は毛頭ない。だからこそ既往産業界にも覚醒を促さなければ、お隣の韓国が国策で振興しようとする「韓流ハリウッド」映画産業都市づくりに遅れを取るだろう。デジタルコンテンツ制作や研究に使用され、大学で使用されている我が国のコンピュータ・ハードも、ソフトも現状では全て米国製である。事象として表層に見える著名な教授陣を大学が並べたからといって、我が国の国際競争力が高まるわけではない。映像産業分野の「産業クラスターの定義」を明確に定め、今こそ行政、産業界が主導し、都市ぐるみで同分野の産業基盤を支える市場環境を整えなければ国際競争力は高まらない。

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